『ストレスチェック』制度についての私見

所長の高田です。                           

 

 

12月より始まった『ストレスチェック』について、当事務所所長としての私見を書かせていただきます。

 

 

今回、『ストレスチェック』の法制化がされましたが、日本産業衛生学会の産業医部会では、現在の日本医師会認定産業医制度の根幹に関わる

諸問題や、『ストレスチェック』問診票の精度の問題といった観点から、『ストレスチェック』の法制化に反対の意を表明していました。

 

私も正直なところ、『ストレスチェック』の法制化には懐疑的な立場

でした。

 

それは私が専属産業医時代に、『ストレスチェック』と同じ

メンタルヘルス施策を既に経験していたからです。

 

もちろん現在の『ストレスチェック』とは異なるところもありましたが、社員全員に結果票を返却しセルフケアを促すこと、更には問診票の高得点者(“高ストレス者”)全員に面談を行い、必要に応じて就業措置や専門医受診勧奨を行うこと、という、現在の『ストレスチェック』と殆ど同じ

もしくはそれ以上の負荷の業務を行っていました。

 

その時の 2000名以上の事業場において、問診票による”高ストレス者” と

して、200名が抽出されました。

 

その約200名について、2か月ほどで全員に面談を実施し、必要な場合は

就業措置や専門医紹介などの事後措置を行いましたが、今思い出しても

非常に大変な労力を要した業務でした。

 

 

その当時の私の率直な感想は、確かにメリットはあるが、デメリットの

多さも看過出来ず、多大な労力に相当する効果は無いのでは?という

ものでした。

 

またメンタルストレス反応を調査する問診票は、あくまで自身の症状に

基づく “主観的評価” 法であるため、定期健康診断で行う血液検査や

画像検査といった “客観的評価” 法の検査と、同列に語れず、偽陽性や

偽陰性の問題を非常に多く内包しています。

 

そのため私は大学院時代に、問診票による“主観的評価”に組み合わせ、

メンタルストレス反応調査の精度を上げ得る 、労働現場で使用可能な

非侵襲的 “客観的評価” 検査法として、指尖加速度脈波を用いた

心拍変動解析による自律神経機能評価に着目した経緯があります。

 

 

というようなもこともあり、“主観的評価”法による『ストレスチェック』を、法制化にまでしてしまうことは、行き過ぎな部分が多いと思われ、

また法制化することで、様々な困難を伴うことが多い面談後の事後措置に

ついて、人事労務スタッフ・労働者本人・職場上司・産業保健スタッフ

など、現場全員の混乱を来たしうる、という強い懸念を抱きました。

 

これは恐らく、産業メンタルヘルス現場の最前線に居る医師であれば、

誰もが一度は抱いた懸念ではないかと思います。

 

 

しかし専属産業医活動後の、現在の嘱託産業医活動において行った同様の

『ストレスチェック』活動においては、専属産業医時代よりもメンタル

不全者の早期発見および早期対応がスムーズに繋がるケースが多く、

今までの考え方が少し変化しました。

 

産業保健スタッフが常駐してしないような事業所では、メンタルヘルスに目がいきにくい状況にどうしてもなりがちですが、だからこそ1回という断面的な、また問診票というあくまで“主観的評価”にしか過ぎない調査で

あっても、労働者のメンタル不調を把握する貴重な機会となりうることと、関係者全員がお互いの立場を思いやって行動すれば、就業上の適切な配慮は可能になる、という想いを改めて抱きました。

 

 

従いまして、今の私の気持ちは、以前経験があるがゆえに不安な点も多々あるものの、法制化された以上は、この制度が全ての労働者に恩恵を

もたらすことが出来るよう、全力でやっていきたいというものです。

 

それには、“高ストレス者”対応ばかりに目を向けるのではなく、

『ストレスチェック』を受検した全員に恩恵があるように、結果票の内容(アドバイス)も毎年充実させていく必要があると思いますし、更には

この制度をきっかけとして、メンタルヘルス研修などの啓発活動も積極的に行っていく必要があると思います。

 

もちろん、全員にメンタルストレスに関する問診票調査を行うことで

生じうる事後措置の難しさなどの課題点については、依然不安な想いは

ありますが、我々産業医が会社スタッフや他産業保健スタッフと連携して

労働者側と真摯に向き合い、また労働者側にも真摯に応えていただければ解決できる場合が多いのではと思っていますし、そう願っています。

 

まだ始まったばかりの制度ではありますので、これから我々が色々な面

から効果・デメリットを検討し、『ストレスチェック』制度のエビデンスを構築しなければなりませんし、この制度に携わる私も含め専門職全員が、拝金主義に走ることなく真摯に応じなければなりません。

 

 

産業医は、”労働現場”という我が国において最大限に予防医学活動を展開することが出来る場所において、活動する医師です。

また産業医活動においては、ある一定の疾病の予防にだけ目を向けるのではなく、“全人的に” 労働者を診るというスタンスが必要になります。

従って産業医は、

 

『予防医学のプライマリ・ケア医』

 

であると、私は考えております。

 

産業医は労働者がどういったリスクに晒されているかを常に、作業管理・

作業環境管理の観点から考える必要がありますし、集団の健康リスクを

感染症対策などの衛生状態や救急体制などから考える必要がありますし、個人的な健康リスクを健康診断の結果から考える必要がありますし、

健全なメンタルヘルスのために労務管理や人間関係、メンタルストレスの

セルフケアということにも目を向けなければなりませんし、更には労働者が快適だと感じられるような職場環境形成も考慮する必要があります。

 

つまり産業医は、『予防医学のプライマリ・ケア医』として、

 

「労働者の健康リスクとなり得るものであれば、とりあえずは何でも

 心配するし、何でもチェックするし、労働者の健康増進に繋がること

 まで考えていくよ!」

 

という存在であるべきだと思いますし、そのために産業医の研修は

労働衛生の三管理・五管理のみならず、THPも含んだ幅広い内容に

なっているはずです。

 

 

今回は『ストレスチェック』の法制化によってメンタルヘルスが脚光を

浴びており、産業医の業務範囲や責任も年々増してきてはおりますが、

 

「今までの産業医はメンタルヘルスの面談は一生懸命してくれたけど、

 生活習慣病の指導面談や、工場の職場巡視をしてくれなかった」

 

「今までの産業医は健康診断結果の面談はしてくれたけど、社員研修の

 健康講話には、忙しいからと応じてもらえなかった」

 

「今までの産業医には、産業医の職務じゃないからと言って、診療行為の 

 相談には一切乗ってもらえなかった」

 

など、私が実際に聴いた企業の担当者の方々の産業医に関する不安に、

自分自身も当てはまらないよう、これからも変わらず、全ての観点から

労働者を診ていく『予防医学のプライマリ・ケア医』であるという心構えを持ち続け、また出来る限り事業所の需要に応じ、独りよがりにならない産業医活動を行っていきたいというのが、今回の『ストレスチェック』の法制化において抱いた、私の一番の想いです。

 

 

長文失礼しました。

 

 

高田労働衛生コンサルタント事務所

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高田労働衛

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